肘関節脱臼は、脱臼の中では肩関節脱臼に次いで多く見られ、スキー場でもしばしばみられる外傷です。
肘関節脱臼はきわめて激しい疼痛があり、転位した骨頭が関節周囲の軟部組織を圧迫や牽引をするため、状況により可及的に整復が必要な場合があります。
ただし、整復操作に入る前に血管・神経損傷の有無や骨折の固有症状の有無など注意が必要で、しっかり確認しなければなりません。
今回は肘関節脱臼の初期対応について見ていきましょう。
肘関節脱臼とは?

肘関節脱臼は肩関節脱臼に次いで多くみられ、肘関節伸展位で手をついて受傷することが多く、転倒時に肘を直接地面にぶつけた際にもみられます。
脱臼タイプは、後方脱臼・前方脱臼・側方脱臼・分散脱臼などがありますが、
ほとんどが後方脱臼(約90%)です。
肘関節脱臼に伴って内・外側副靭帯損傷が必発といわれており(特に内側側副靭帯損傷が多い)、骨折や神経損傷の合併を伴うケースもあるので注意が必要です。
発生頻度の高い”後方脱臼”について見ていきましょう。
- 肩関節前方脱臼
- 肘関節後方脱臼
- 顎関節前方脱臼
- 肩鎖関節上方脱臼
- 第一中手指節関節背側脱臼
(wikipediaより引用)
肘関節後方脱臼の外観上でのチェックポイント
外観上でのチェックポイントです。(画像はクリックで拡大できます。)
- 肘関節は軽度屈曲位(屈曲30~40°)で弾発性固定されている
- 肘頭が後方に突出し、上腕三頭筋腱が緊張して索状に見える
- ヒューター三角の乱れ(肘頭高位)
骨折の症状が無いか、必ず圧痛の確認を。特に外見が似ている「上腕骨顆上骨折」としっかり鑑別しましょう。骨折があれば必ず圧痛があるので念入りに。(まれに例外もありますが)
肘関節の外傷は脱臼だけでなく、捻挫であっても激しい疼痛があります。
肘関節脱臼では側副靭帯損傷が必発するので、整復後も痛みが強く、痛みで曲げ伸ばしができないケースも多い。(肩関節脱臼では整復されるとほぼ痛みは落ち着きますが、肘関節脱臼では整復後も痛みを訴えるケースが多い。)
合併症
肘関節後方脱臼の主な合併症です。
- 骨折(内側上顆、外顆、尺骨鉤状突起、橈骨頭)
- 橈骨動脈の損傷または圧迫(橈骨動脈の拍動が減弱or消失する)
- 橈骨神経・正中神経・尺骨神経の損傷または圧迫
- 外傷性骨化性筋炎
- 内・外側側副靭帯損傷(特に内側側副靭帯損傷が多い)
脱臼では周囲の神経・血管の圧迫による、麻痺や循環障害などが生じる為、
原則的に6〜8時間以内に整復することが求められる。
A(気道):正しく話せるか
B(呼吸):正常な呼吸を行えるか
C(循環):脈に異常はないか、皮膚の色や温度に異常はないか
D(中枢神経):意識はしっかりしているか、手足を動かせるか
E(脱衣と体温):体温は正常か、全身をみて他の部位に損傷はないか
↓詳しくはこちらの記事にまとめました
肘関節脱臼の整復法
注意点、原則として
脱臼患者の初期対応として専門医(整形外科)へ早急な紹介が原則です。
安易に整復を行うのは絶対に避けてください。
現場の状況、症状や合併症の有無をしっかり判断した上で、応急的に整復を行うようにしましょう。
また骨折などの合併症が疑われる場合は触らず、そのままの肢位で固定を行い早急に病院へ紹介しましょう。
整復を行う場合は必ず患者に説明を行い同意を得る必要があります。
肘関節後方脱臼の整復動画
実際の整復動画です(撮影許可をいただいております。)
スノーエイド接骨院では基本的に2名で行っています。(動画は3人映っていますが)
【患者:側臥位】
(1)助手:手関節部を把持し、脱臼肢位の角度のまま前腕長軸末梢方向に徐々に牽引する。
(2)術者:4指で牽引で腕がもっていかれないように上腕を支えながら、拇指で肘頭を鉤状突起を乗り越えるイメージで上へ押し上げながら直圧し整復する。
脱臼整復のポイントと注意点
- 骨折など合併症が疑われるものは触らない。
- 整復は愛護的に。脱臼整復の基本は牽引をかけながら、引っかかりを外すように行う。
- 整復のコツは「脱力」です。力が入っていると一向に入りませんが、力が抜けると嘘のように入ります。
- 整復はあくまでも応急的に。何度もトライしない。整復できる気配がなければ、無理せず専門医へ。
まとめ
脱臼は6〜8時間以内に整復をしなければならないと言われていますが
実際はかなり痛みが強いので、やはりなるべく早めに整復してあげるのが望ましいです。
安易に整復に踏み切るのは絶対にしてはいけませんが
現場の状況や患者の合併症の有無などしっかりと確認し判断した上で、応急的に整復を行うのはとても意味のあることだと思います。
柔道整復師が医師の同意なしで行えるのは骨折・脱臼では応急処置までなので、くれぐれも業務範囲をこえてしまわないように適切な処置を行いましょう。
そこから先は医師の仕事なので、しっかり専門医に引き継ぎましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。